Appleの最新デバイスVision Pro向けに開発されたYouTube閲覧アプリ「Juno」が、App Storeから削除された。このアプリは、独立系開発者クリスチャン・セリグによって開発され、YouTubeが公式アプリを提供していないVision Proにおいて、YouTube動画を没入型環境で楽しむことを可能にしていた。

しかし、YouTubeを所有するGoogleは、Junoが同社のガイドラインに違反していると主張し、アプリの削除を求めた。結果として、Appleはこれに応じ、JunoをApp Storeから削除することとなった。

「Juno」アプリの概要とその役割

「Juno」は、Vision Pro向けに開発された非公式のYouTube視聴アプリである。YouTubeがまだ公式アプリを提供していない中、JunoはユーザーがVision Pro上でYouTube動画を楽しむための重要な役割を果たしていた。没入型の環境で動画を視聴し、ジェスチャーでウィンドウサイズの変更や動画の早送り・巻き戻しができる機能を提供していた。

アプリは、独立系開発者クリスチャン・セリグによって作成された。彼は、かつてReddit用アプリ「Apollo」を手がけており、その技術力と経験を活かしてVision Pro向けの開発に挑戦した。2024年2月にVision Proが登場した直後にJunoをリリースし、アプリの少ない初期段階のVision Proにおいて、ユーザーにとって「楽しめるアプリ」としての評価を得た。

Junoは、単なるYouTubeのウェブビューを提供するもので、広告のブロックなどの機能は搭載していなかった。あくまでYouTubeの動画をより「visionOSらしく」楽しめるように改良したものであった。しかし、この「改良」が後にトラブルを招くこととなる。

YouTubeの規約違反によるアプリ削除の背景

Junoは、YouTubeの公式アプリが存在しない隙間を埋める形で登場したが、この行動がGoogleの反発を招いた。YouTubeを所有するGoogleは、JunoがYouTubeのガイドラインに違反していると指摘し、開発者に対して警告を発した。

具体的には、JunoがYouTubeのウェブサイトを「不正に改変している」との主張であった。Googleは、同社の商標やアイコンの使用に関する規定違反を問題視し、さらにJunoが視聴体験においてYouTubeの意図しない形で機能していることを懸念していた。これに加え、YouTubeはJunoが公式広告をブロックしているわけではないにもかかわらず、アプリの取り扱いに関して厳格な姿勢を取った。

最終的に、GoogleはAppleに対して正式な申し立てを行い、Appleはこれに応じてJunoをApp Storeから削除する決定を下した。これにより、Junoはユーザーに通知されることなく、突然App Storeから姿を消すこととなった。

開発者クリスチャン・セリグの声明と今後の方針

Junoの開発者であるクリスチャン・セリグは、今回の削除に対して特に争う意向はないことを明らかにした。彼は、自身のブログでJunoがあくまで「趣味的なプロジェクト」であり、本格的な商業アプリではなかったと説明している。

セリグはまた、Googleの対応に対して不満を表明したものの、Junoが単なるYouTubeのウェブビューであり、視聴体験を「visionOSに合わせただけ」であると主張している。広告のブロック機能などは実装していないため、YouTubeのビジネスモデルに直接的な損害を与えるものではなかったと強調している。

今後は、Junoに代わるアプリの開発は予定しておらず、セリグは現在iOS向けの「Pixel Pals」という別のアプリの開発に専念する方針である。Pixel PalsはかつてのApolloアプリの機能から発展したもので、セリグにとっては今後の主力プロジェクトとなる見込みだ。

Vision Proユーザーへの影響と今後の展望

JunoがApp Storeから削除されたことにより、Vision ProユーザーにとってのYouTube視聴体験に大きな影響が及ぶ可能性がある。すでにJunoをインストールしているユーザーは、しばらくの間はアプリを利用し続けることができるとされているが、YouTubeが今後ウェブサイトの仕様を変更することでJunoの機能が停止するリスクもある。

公式のYouTubeアプリがない中、Junoの削除はユーザーにとって痛手である。Vision Pro向けの専用アプリが少ない現状において、YouTube動画を快適に楽しむための選択肢がさらに狭まったことになる。これにより、今後他の開発者が類似のアプリをリリースすることが期待される一方で、Googleがどのような対応を取るかによって、Vision ProにおけるYouTubeの視聴体験が左右されるだろう。

現時点では、GoogleやAppleからの公式な代替策は発表されていないが、Vision Proの普及が進むにつれて、公式のYouTubeアプリが登場する可能性も十分に考えられる。