QualcommとAppleのビジネス関係が注目を集めている。AppleはiPhoneやiPadに搭載する5GモデムをQualcommに依存しており、莫大なライセンス料を支払っているが、これを削減するために自社製の5Gモデム開発を進めている。iPhone SE 4を皮切りに2024年以降、自社製チップの導入を加速させる方針だ。
一方、Qualcommは支配的な立場を利用し、Appleへの供給を突然停止する可能性が取り沙汰されている。この動きはQualcommにも収益減少のリスクをもたらすが、Appleにとっては新たな供給元を急いで探す大きな試練となる。両社の契約は2027年まで継続するが、Appleの自立計画は次世代デバイス開発にも影響を及ぼす重要な転換点といえる。
Appleの自社製5Gモデム開発が目指す次世代戦略
Appleは長年にわたり、Qualcommへの依存を減らすために5Gモデムの内製化を進めてきた。iPhone SE 4に搭載されるとされるカスタムベースバンドチップは、その第一歩である。このモデムは、Appleがハードウェアとソフトウェアの統合をさらに進める試みと考えられる。特に、ミリ波技術への対応やMac製品へのセルラー機能追加など、デバイスのさらなる進化が期待されている。
この取り組みは、単なるコスト削減だけでなく、製品の独自性強化というAppleの哲学とも一致する。ただし、開発の課題は依然として多く、特許問題やテストプロセスが障壁となる可能性もある。これまでQualcommが築いてきた技術的優位性に挑むには、莫大なリソースと時間が必要であり、Appleの計画は長期戦となる見込みだ。
Qualcommの影響力を排除しつつ、Appleが自社技術で市場を支配する構図が実現すれば、業界全体に大きな変化をもたらすだろう。しかし、この動きが消費者体験にどのような形で影響を与えるのかは、まだ未知数である。
Qualcommの供給停止シナリオが示す産業リスク
著名なアナリスト、Patrick Moorhead氏の指摘によると、QualcommがAppleへの5Gモデム供給を即時停止することは、Appleのサプライチェーンに深刻な影響を及ぼす可能性がある。このシナリオは現実化する可能性は低いものの、Appleにとって予期せぬリスクを考慮する上で重要な示唆を含んでいる。
Appleは2027年3月までQualcommとの契約を維持する見込みだが、供給の一時停止が発生すれば、デバイス生産計画の大幅な変更を余儀なくされる。また、代替供給元を短期間で確保することは難しく、株価への影響やブランドイメージの低下も懸念される。一方で、Qualcomm側も収益の一部を失うリスクを抱えており、両社にとってウィンウィンな解決策が模索されるだろう。
このような事態を未然に防ぐために、Appleが新たな技術パートナーを探す動きは、業界全体での競争環境をさらに複雑化させる可能性がある。特に、Appleの動向は他のデバイスメーカーにも影響を与えるため、供給リスクの波及効果が注目される。
高額な5Gモデムコストが示す収益モデルの再考
iPhone 16シリーズの部品コスト分析では、5Gモデム1つあたり28ドルという価格が示されている。この金額は、年間9000万台出荷を目指すAppleにとって莫大な出費となり、Qualcommの収益源としても重要な役割を果たしている。特に、旧世代のiPhoneやiPadでも同様のモデムが使用されている点は、Qualcommの収益をさらに押し上げている。
Appleがこうしたコスト構造を見直し、自社製モデムの開発に投資する背景には、単なる経済的理由だけでなく、サプライチェーン全体のコントロールを強化する狙いがあると考えられる。この戦略が成功すれば、製品価格の調整や技術革新のペースをApple自身が完全に掌握できるようになるだろう。
しかし、自社製モデムが市場に浸透するまでの間、AppleはQualcommに依存せざるを得ない。この間に市場シェアや価格競争にどのような影響が及ぶのか、業界全体で注視されることになる。Qualcommが現在の立場をどこまで維持できるかが、業界全体の収益モデル再考の鍵となる。