Metaは、Connect 2024イベントで初のOrion ARグラスのプロトタイプを発表した。この新技術は、スマートフォンを置き換える未来を見据えたものだ。特にiPhoneをターゲットにした製品として、AR(拡張現実)技術による新たな日常が示唆されている。
Orionはまだ商業製品ではないが、MetaのAI技術や新たなインターフェースにより、iPhoneに対抗するポテンシャルを秘めている。

Metaが初公開したOrion ARグラスの概要

Metaは2024年のConnectイベントにて、Orion ARグラスのプロトタイプを初めて公開した。Orionは、AR(拡張現実)技術を用いて、スマートフォンの機能を完全に置き換えることを目指している。このARグラスは、7つのカメラを搭載した厚みのあるフレーム、シリコンカーバイド製のレンズ、そして目の前に映像を投影するマイクロLEDプロジェクターによって構成されている。

ユーザーは、視界に広がる70度の視野内にデジタルコンテンツを配置することで、周囲の現実世界にデジタル情報を重ね合わせて体験できる。また、このデバイスは「神経リストバンド」というコントローラを装備しており、手首の動きや目の動きで操作する仕組みになっている。さらに、Orionには「コンピュータパック」と呼ばれる外部デバイスがあり、このパックがARグラス全体の処理能力とオペレーティングシステムを支えている。

これにより、Orionは現時点では完全なスタンドアロンデバイスとは言えないが、スマートフォンやその他の周辺機器との連携を可能にし、未来の可能性を提示している。Metaは、このプロトタイプが市販される予定はないとしつつも、将来の消費者向けARグラス開発の大きな一歩であると強調している。

iPhone時代の終焉—スマートフォンを置き換えるAR技術

MetaのOrion ARグラスが示唆するのは、スマートフォンが過去の遺物となる未来である。MetaはこのARグラスによって、特にiPhoneをターゲットにした市場戦略を展開し、AR技術が日常的なコミュニケーションツールとなる時代を見据えている。Orionは、まだ消費者向けの製品には至っていないが、そのコンセプトはスマートフォンの代替となることを明確に意図している。

現在の技術では、完全なARグラスの実現にはまだ課題が多いが、MetaがOrionを発表したことで、他のテクノロジー企業もAR技術に真剣に取り組む必要性が高まるだろう。特に、AppleやGoogleといった企業は、将来的にこの技術で競争することが予想される。Orionがもたらす新しいインターフェースは、ユーザーが日常的にスマートフォンを持ち歩くという概念そのものを変革する可能性を持っている。

iPhoneはスマートフォン市場の象徴的存在であるが、ARグラスが普及すれば、その地位も危うくなる。MetaがOrionで示したように、スマートフォンに依存しない新たな体験がユーザーの日常に浸透することで、スマートフォンの役割は次第に減少していくことが予測される。

AppleとMetaの競争—AR技術の覇権争い

MetaがOrion ARグラスを発表したことで、AR技術を巡る競争が一層激化する可能性がある。特にAppleとの競争は、スマートフォン市場での覇権争いの延長線上に位置している。Appleは既にVision Proという混合現実デバイスを発表しており、将来的にはApple自身もARグラス市場に参入すると予想されている。

MetaのOrionとAppleのVision Proには、いくつかの共通点が見られる。例えば、両デバイスともにユーザーインターフェースとして目の動きやジェスチャーを使用する点が共通している。また、Apple WatchやiPhoneと連携することで、AppleはOrionに対抗できる技術基盤を既に持っている可能性が高い。

一方で、MetaはAI技術を活用したユーザー体験の提供に強みを持っており、Orionが物体認識やAIによる提案を可能にするデモンストレーションが行われている。このAI機能が、どれほどのユーザーに価値を提供できるかが、Metaの勝敗を左右する要素の一つとなるだろう。AR技術の覇権を握るのは、AppleかMetaか、その未来はまだ定かではないが、競争は激化の一途をたどっている。

ARグラスの実現に向けた課題と展望

Orion ARグラスの発表はAR技術の進化を示すものであるが、同時にその実現には多くの課題が残されている。まず、Orionのデザインはまだ実用的とは言えず、重量やフレームの厚みなどが現行のスマートフォンに比べて携帯性に欠ける。現段階では約100gという重量で、厚みもあり、日常的に使用するにはまだ改善が必要である。

また、価格面でも課題が大きい。Orionの製造コストは約10,000ドルとされており、商業化にはコストダウンが不可欠である。特に、シリコンカーバイド製のレンズが大きなコスト要因となっているが、これを大規模生産可能な価格にまで引き下げる必要がある。

さらに、ARグラスがスマートフォンを置き換えるためには、操作性の向上も求められる。Orionは現段階ではコンピュータパックが必要であり、完全なスタンドアロンデバイスとしての実用性は未だ確立されていない。今後、技術のさらなる進化とコスト面の改善が進むことで、ARグラスは次世代のスマートデバイスとして日常に浸透していく可能性を秘めている。