Apple Watchが先月、新たに睡眠時無呼吸症候群の検出機能を追加した。この症候群は、睡眠中に呼吸が停止する状態を指し、主に心血管系に深刻なダメージを与える可能性がある。新しい機能により、未診断の人々に医療を受けるきっかけを与えるが、一方でその精度や限界についての議論も存在する。

Apple Watchの新機能:睡眠時無呼吸症候群の検出

Apple Watchが新たに搭載した睡眠時無呼吸症候群を検出する機能は、睡眠中の呼吸障害を察知し、ユーザーに警告を送るという画期的なものである。この機能は、ウォッチの加速度センサーを利用して微細な手首の動きを検出し、これが呼吸に対応することで睡眠中の呼吸パターンを追跡する仕組みである。これにより、無呼吸症候群の兆候があれば通知が送られる。

この機能は、最新のSeries 10だけでなく、アップデートされた一部の旧モデルでも利用可能である。ただし、使用するには手動で設定をオンにする必要がある。Appleによると、30日間のデータを収集し、その期間に10回以上の呼吸停止が検出された場合、通知が送信される。また、異常な呼吸停止が多発している場合には特に警戒が必要となる。

Apple Watchによる睡眠時無呼吸症候群の検出は、専門医による診断を置き換えるものではなく、早期発見や医療機関への受診を促すための補助的なツールとされている。

睡眠時無呼吸症候群がもたらす健康リスクとは

睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきや呼吸停止だけに留まらず、健康全般に深刻な影響を及ぼすことが知られている。最も顕著なのは心血管系への負担で、高血圧、心不全、脳卒中、さらには心臓発作のリスクを高めることが報告されている。また、無呼吸が長期間続くと、心臓のリズムに異常を引き起こすことがあり、特に心房細動などの不整脈が発症する可能性がある。

さらに、睡眠中に適切な酸素供給が行われないため、脳への影響も無視できない。無呼吸症候群は、認知機能の低下やアルツハイマー病のリスク増加とも関連があるとされている。また、日中の極度の眠気や集中力の低下を引き起こし、交通事故のリスクを高める要因となっている。

このように、睡眠時無呼吸症候群は全身の健康に悪影響を及ぼすため、早期発見と適切な対策が極めて重要である。

アップルウォッチの限界とその影響

Apple Watchの睡眠時無呼吸症候群検出機能は画期的な一方で、その限界もある。最も指摘されるのは、この機能が手首の動きをもとにしたアルゴリズムに依存している点である。これにより、呼吸停止の正確な検出は可能だが、血中酸素濃度や呼吸努力といった他の重要な指標は考慮されていない。特に軽度から中度の無呼吸症候群の検出率は低く、約43%程度に留まっている。

さらに、Apple Watchは無呼吸の発症を示すアラートを送るものの、ユーザーに具体的な症状や酸素飽和度については尋ねない。このため、異常があったとしても、それが必ずしも無呼吸症候群であるとは限らない。また、血中酸素濃度の測定機能は一部のモデルで使用できない状況にあり、この点がApple Watchの機能を制限する要因となっている。

こうした技術的な限界にもかかわらず、この機能は特に医療機関へのアクセスが限られているユーザーにとっては有効な早期警告システムとなり得る。

睡眠時無呼吸症候群への治療と対策

睡眠時無呼吸症候群の治療法としては、最も一般的なのがCPAP(持続的陽圧呼吸)である。この装置は、睡眠中に空気を送り込むことで気道を開き、呼吸の停止を防ぐ。ただし、この治療法がすべての患者に適しているわけではなく、半数近くの患者が装置の使用を継続できないというデータもある。

軽度の無呼吸症候群の場合、体重減少や睡眠習慣の改善が有効とされることが多い。特に肥満が原因で気道が狭まっている患者に対しては、体重管理が症状の軽減につながる。また、若い患者や肥満でない患者では、顎や扁桃腺などの解剖学的要因も治療の対象となることがある。

無呼吸症候群の治療は個々の症状や重症度によって異なるため、専門医による診断と治療計画が欠かせない。Apple Watchの警告があった場合でも、それに過度に依存することなく、専門家の診断を受けることが推奨される。